パソコンは、さまざまなセキュリティ機能によってウイルスの感染や不正アクセス、情報漏えいなどを防いでいます。データの「暗号化」もセキュリティの一環です。
しかし、データ復旧の観点からみると、データの暗号化は非常に厄介なものでもあります。成功率は一般的なデータに比べると低くなりますが、データ復旧が不可能なわけではありません。暗号化されたデータが破損した場合でも、諦める必要はないのです。
ここでは、データの暗号化とはどういったものなのかも含め、暗号化されたデータの復旧についてご紹介します。
1 データの暗号化とは?

データの暗号化とは、データを記録する際にある法則に従って変換することでセキュリティを高める手法です。元のデータとは異なる文字列に変換して第三者には簡単に閲覧できない状態にします。
デバイスのログインパスワードや、URLの頭に「https」がついたWebサイトなどが、身近で使われている暗号化の例です。
暗号化したデータを読むためには、復号化(暗号化を解除する操作)を行わなければいけません。不正アクセスなどでデータを抜き取られた場合でも、情報漏えいを防げるのがメリットです。
ただし、復号に必要な鍵(パスワード)が外部に漏れてしまうと、暗号化をしていてもデータを守り切ることはできません。
復号用の鍵を紛失してしまうと、元データを復元できなくなる点もデメリットといえます。
2 データを暗号化する方法

データを暗号化する手法は、ソフトウェアベースとハードウェアベースの2種類に分けられます。
それぞれの特長は、以下のとおりです。
2-1 ソフトウェアベース
ソフトウェアベースの暗号化は、指定したファイルやフォルダを暗号化する方法です。クレジットカード番号や暗証番号など、機密性が高いデータだけを暗号化することができます。
利便性が高い一方で、暗号化するファイルやフォルダの指定は人の手で行うため、暗号化し忘れた、暗号化されていないフォルダにデータを保存したなどのリスクがある点に注意が必要です。
2-2 ハードウェアベース
ソフトウェアベースの暗号化とは異なり、HDDやUSBメモリといったデバイス単位で暗号化を行う手法です。デバイス全体を暗号化するため、暗号化し忘れるといったことがありません。
設定しなくても自動で暗号化を行うデバイスもあります。
3 データの暗号化で使う鍵の管理方法

暗号化は、鍵の管理方法から大きく2種類に分けられます。
それぞれのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
3-1 共通鍵暗号方式
データの暗号化と復号化に、共通の鍵を使用する方式です。対称暗号化方式と呼ばれることもあります。シンプルな仕組みなので処理速度に優れており、大容量のファイルの暗号化にも適しています。
一方で、データを共有する人数分の鍵が必要になるため、鍵の管理に手間がかかります。鍵が第三者に渡った結果、復号されてしまう恐れがある点もデメリットです。
代表的な暗号アルゴリズム(暗号化・復号化の手順や規則)には、AESやRC4、DESなどが挙げられます。
3-2 公開鍵暗号方式
暗号化と復号化でそれぞれ異なる鍵を利用するのが公開鍵暗号方式です。公開鍵と秘密鍵を用意して、暗号化には公開鍵を、復号化には秘密鍵を使います。
そのため、データの暗号化は誰でも行える一方で、復号化は秘密鍵を知る人しか行えません。
セキュリティ面で優れていますが、アルゴリズムが複雑で処理速度が遅い点がデメリットです。
代表的な暗号アルゴリズムとしては、RSAや楕円曲線暗号方式(ECC)などが挙げられます。
また、共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式を組み合わせて、安全性と処理速度を両立したハイブリッド暗号方式もあります。
4 暗号化されたデータを復旧する場合の注意点

万が一、暗号化していたデータにトラブルが起こった時は、適切に対処することが大切です。暗号化されたデータが消えてしまった際などは、以下の操作は控えてください。
4-1 データ復旧ソフトは使わない
通常のデータ復旧であれば、データ復旧ソフトを使って自力で復旧できる可能性があります。
ただし、暗号化されたデータの場合は市販のデータ復旧ソフトを使用したり、暗号化ソフトを使って復号化したりするのは厳禁です。
暗号化を行ったデータは通常のデータとは構造が異なるため、データ復旧ソフトを使っても復旧させることはできません。
不安定な状態で復号化を試みた結果、より深刻な事態に陥ることもあります。
4-2 別のパソコンでの操作も控える
暗号化されたHDDが破損した場合は、ディスクチェックや別のパソコンでの操作を控えてください。暗号化ソフトを介さずにHDDの操作を行うと、データ復旧ができなくなってしまいます。
パソコンやデバイスによっては、暗号化の設定をしていなくても、自動的に暗号化されることもあります。万が一に備えて、仕様を確認しておくと安心です。
5 暗号化されたデータの復旧は専門業者に相談しよう

データの暗号化は情報漏えいを防ぐ効果的な方法ですが、暗号化の種類によってはデータの一部が破損しているだけで復号化できないケースがあります。データの安全性が高まる一方で、データ復旧の難易度も高まってしまうということです。
暗号化しているHDDなどで障害が発生し、データを取り出せなくなった時は、すぐにデータ復旧の専門業者に相談することをおすすめします。
また、暗号化されているデータを取り出すには、復号化が必要になるケースもあります。その際は、復号化用の起動ディスクやキーFD、暗号化ソフトのIDとパスワード、暗号化ソフトなどが必要です。
何が必要になるかは使用している暗号化ソフトによっても変わるため、事前にデータ復旧業者に相談しておきましょう。
6 暗号化されたデータのトラブルも落ち着いて対処を

情報漏えいの防止などに役立つデータの暗号化ですが、データを保存している媒体を保護するものではありません。何らかのトラブルによって、暗号化していたデータが読み取れなくなってしまうことも考えられます。
自力で何とかしようとした結果、より深刻な状態に陥ってしまうこともあるため、注意が必要です。暗号化されたデータを復旧したい時は、すぐ専門業者に依頼することをおすすめします。