凛 Master serise of Japan

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INTERVIEW

「ただひとつの オリジナルな製品」ゼロワンプロダクツ株式会社 樋口社長が語る「しつこい開発」

ゼロワンプロダクツ株式会社
「木のカバンがほしい」という発想から、世界に類のない「縫える木」を開発し、日米で特許を取得。第3回ものづくり日本大賞経済産業大臣賞を受賞した天然木の自在できるシートは、パソコンや携帯など電化製品にも提供されている。

ゼロワンプロダクツ株式会社 代表取締役社長 樋口伸一氏
大阪市出身。化粧品の仕事を経て「木のカバン」を作る事業を始める。世界で初めての「縫える天然木素材」は、ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞を受賞。
――― 樋口社長はそもそも、どういった経緯で天然木という素材にいたったのですか?
樋口社長;もともとカバンが好きなので、カバンでビジネスができたらいいなと考えたのが最初です。それで、誰もまだやったことがない、木のカバンができたら面白いなと。木は同じ幹からとっても木目も色みも違うので、絶対に「世界にたったひとつしかないカバン」ができると考えたんです。
――― ゼロから始めて世界で初めての製品を開発するというのは、大変な苦労だと思いますが、この製品で、一番熟練の技が必要なのは、どんなところですか?
樋口社長;まずは「縫える木」を作るというのが大変でしたが、これは龍谷大学の協力を得て製造方法を開発できました。技術的に難しいのは、素材をつなぎ合わせること。当社ではハギレも捨てません。せっかくエコな商品ですから。細いハギレを並べてつなぎ合わせ、また次の商品を作ります。これがうまくいかないと、つなぎ目が出たり破れたりします。
――― よく見ても、本当につなぎ目が分かりませんね。
樋口社長;それから、デザインを実際に製品の形にするところです。紙で見ているときには良いと思っても、実際に木を縫ってカバンにしてみたら、なにか物足りない。これはどんなにデザイナーが頑張っても仕方ないですね。やってみないことには。
――― 本当の「形」にするのは職人さんですものね。
樋口社長;木の素材は、布や革と勝手が違うので、熟練の職人も苦労しています。「そこをなんとかするのがプロでしょ」と言って、どうにか頑張ってもらいます。思った通りの商品ができあがったときは、なによりも嬉しい。
――― 職人さんも初めてのことで、色々戸惑われるでしょうね。
樋口社長;なにしろできあがるまで、誰も正確な仕上がりをイメージできないんです。木を縫うなんて初めてのことなので。時間も、通常の倍はかかります。
――― なるほど。社長が仕事をするときに、いつも心がけていることはなんでしょうか。
樋口社長;他人と同じことはしたくないというのは、いつも自分の中心にあると思います。あまのじゃくとも言えますが(笑)。新作のデザイン案が上がってくるたびに、「普通すぎ。なんでそんなに地味やねん!」って言います。普通でないのが面白いんですよ。周りからは「社長は派手すぎ」なんてブーイングですけど(笑)。
――― 良いものを作ろうと思ったら、色んな意見を戦わせますよ。そういうこだわりは、「モノづくりの人間」らしさではないでしょうか。
樋口社長;しつこいんですよ(笑)。うまくいかなくて嫌になっても、やめたくはない。やめたら全部なくなるけど、やめないうちは成功する可能性が残っているから、まだ「失敗」じゃない。グチをこぼすたびに「そんなに大変ならもうやめれば?」と言われますけど、いっこうにやめませんね(笑)。
――― そのしつこさが、良い商品につながるのだと思います。こだわりのモノづくりの環境として、整えていることはありますか?
樋口社長;設備などではありませんが、とにかく「誰もやっていないことをやっている」という自負だけは常に意識してほしいと、皆に話しています。色々難しいことはありますが、最終的に「良い顔」をした商品を作りたいんです。いつも丁寧な仕事をしてもらいたい。
――― 良いもの、というのは意識の差で変わりますよね。ロジテックでも色々な点にこだわって開発を進めていますが、やりだすと本当にきりがないです。
樋口社長;「初めてだからできない」「木だからできない」というのではなく、持っている技術を駆使して、知恵を絞って、きれいなカバンを作ってほしい。ぱっと見て「良い」と思わなきゃお客さんは買いませんよ。そこは「良い顔」を作り上げるための意識だと思います。
――― なんだか「工芸品」みたいですね。納期があって大量生産をこなさないといけないのであくまでも「工業品」だとは思うのですが、「工業品」と「工芸品」の間のような性質がありませんか。
樋口社長;そのキーワードはクライアントのメーカーからも出ましたね。「工芸品に近いものを作りたい」と。今では木目調のプリントなんて簡単に安くできます。エンボス加工をすれば、手触りも本物みたい。じゃあなぜゼロワンプロダクツに頼むのかと聞くと、「工業製品らしくない天然素材を使いたい」と言います。そういう希望は多いですよ。
――― なぜ天然素材なのでしょうか。
樋口社長;エコとか癒しとかもありますが、重要なのは、ひとつとして同じものがない、ということ。そして、最終的に「本物」だということです。
――― 最近のプリントは本物と区別がつかないものも多いと言われますが、ゼロワンプロダクツの製品と比較していかがですか。
樋口社長;私もプリントでも天然にそっくりだと思っていました。先日、車の販売店に行きましたが、最高級車の内装は天然ウッド。1ランク安い車も、内装は同じに見える。でも聞いてみたら人工のプリントだそうです。思わず「じゃあ、全部プリントでいいじゃない」って言っちゃいました。
――― 樋口社長がそれを言っちゃあだめじゃないですか(笑)。
樋口社長;(笑)。見た目が同じなら、安い方がいいやってね。でも販売員が2台の車を並べてくれたんです。そうしたら、どこがっていう説明ははっきりできないのですが、「ああ、違うな」って思いました。人間の五感って不思議なもので、並べてみたら分かるんですね。高級車に乗り慣れた人だったら、ウッドを天然からプリントに換えたらすぐばれちゃいますって販売員は言っていました。「本物には本物の力がある」んですね。
――― すごい言葉ですね。人間って、どこかできちんと見分けるのですね。さて、最後になりますが、社長の座右の銘を教えてください。
樋口社長;人に言うと笑われますが、「明日できることは 今日するな」です。
――― どこかで聞いたことがあるような違うような・・・?
樋口社長;逆の格言はありますよね。「今日できることを明日にのばすな」とか「明日することを今日しなさい」とか。でも、明日でいいなら、明日やればいい。今日は今日で楽しめればいいじゃないかと。「サボりの格言」ですね。皆に「お前にはぴったりだ」と言われます(笑)。
――― 先を急がずに一歩立ち止まる、というところが「こだわり続ける」ことにつながっているのかもしれませんね。ロジテックでも、妥協せず「本物」を目指してこだわり続けたいと思います。今日はありがとうございました。
■取材を終えて■
樋口社長のパワーに圧倒された2時間でした。良いものを作りたいという信念が強く伝わってきて、私自身も励まされました。今回のロジテックの「凛」シリーズは、デザインにこだわることをコンセプトにしているので、通常は工業製品として諦めたり妥協したりするところも、思い切りしつこくやりたいと思います。