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INTERVIEW

「アルミはこんなに美しい」土井特殊鍍金工業株式会社 金山主任に聞く「アルミ染色の技術」

土井特殊鍍金(めっき)工業株式会社
1948年創業。60年以上の実績を誇り、アルミニウムの加工や染色、表面処理などを行う。パーツとしての機能面のみでなく、見て「美しい」表面加工と色にこだわり、デザインの分野でも優れた製品を供給しつづけている。

土井特殊鍍金工業株式会社 主任 金山一幸氏
兵庫県尼崎市出身。2000年に土井特殊鍍金工業株式会社に入社、次世代を担う技術者であり、近年は現場監督・若手の育成にも関わる。
――― そもそも、金山さんがアルミ加工のお仕事に就かれた理由はなんですか?
金山主任;まず染色されたアルミの美しさに惹かれました。採用担当の方に、長い歴史がある工場の技術を次の世代に伝えたいと言われ、学んでみたいと思いました。学校で化学を専攻したので、その知識が生かせるのも良かった点です。
――― 実際にお仕事をされてみて、印象はいかがでしたか?
金山主任;やはり、難しかったです。簡単に「染色」と言っても、薬品の温度から染料の調合、作業のタイミング、水質管理等、それぞれ適切に行わなければ、本当に良い色は出ません。
――― 一番熟練の技が必要なのは、どの工程ですか。
金山主任;染料の調合です。染料は液体ですが乾いたときは印象が違うので、乾いたときをイメージして調合しないといけませんし、製品の大きさや形も考慮し、最終的には自分の目で見て合わせます。また、同じ「黒」でも赤っぽい黒と青っぽい黒とは違いますから、クライアントの要望をよく理解する必要があります。モノづくりは理論だけでは通用しないことを痛感しました。
――― 理論も大事ですが、やはり実際に作ってみて出てくる色々な問題を解決しないと、本当に良いものはできませんよね。ロジテックの開発でもよく言われます。金山さんがやりがいを感じるのは、どんなところですか?
金山主任;品質をキープしながら大量生産する、全体管理です。いくら良い色が出ても、膨大なコストと時間がかかっては、製品として問題です。決められた数量を同じ品質で納品しなければなりません。それには、自分ひとりの技術ではなく、前後の工程も含めた全体の管理が重要です。後輩を的確に指導するのも、そのひとつです。
――― 確かに、製品として重要な要素ですね。前後工程の質で全体の品質が変わるというのは、例えばどんなことがありますか?
金山主任;染色の後に「封孔(ふうこう)処理」というのがあります。アルミを染色するには、まず水に入れて電流を通し、たくさんの細かい穴のできた被膜を作り、その穴に染料を入れます。この後、穴をふさぐのが封孔処理です。これが甘いと、触ったときについた指紋が取れにくかったり、反対に次第に色が抜けてしまったりします。
――― えっ? 指紋はアルミだったら仕方ないことかと思っていました。
金山主任;改善はできますよ。よく手で触る製品であれば、封孔処理を強めにします。ほかにも温度や湿度等、最終的にアルミの使われる製品がどんな場所に置かれどのように使われるかで、後工程は変えています。
――― 複合的な要素が多く大変だと思いますが、うまくできたときは、嬉しいでしょうね。
金山主任;難題をいくつも乗り越えて、クライアントの希望通りのものができ上がったときが、一番嬉しいです。店頭に製品を見に行ったりもしますよ。まだまだアルミの染色技術は知られていないので、「アルミでこんなに色を表現できるんだ」ということを、みんなに知ってほしいです。
――― これほど色々な表現ができるとは、実は知りませんでした。つやがないのが普通と思っていましたが、御社の製品は非常に美しい鏡面仕上げもありますし。こういった素晴らしい技術が、なぜ知られていないのでしょうか。
金山主任;難しい技術だからでしょうね。日本にはアルミの加工会社はたくさんありますが、豊富なカラーで発色良く大量生産をこなせる企業は、ごく限られています。最近は廉価な海外ものも多いですが、やはり安いもので複雑なことはできないので、単純なものが増えています。このままでは、日本の会社が長年積み上げてきたノウハウが失われてしまいます。
――― コストダウンは時代の流れとはいえ、日本の高い技術がなくなってしまうのは残念ですね。
金山主任;海外とは、価格では勝てません。だからこそ、技術にこだわって土井鍍金工業でしかできない、特別な製品を作っているつもりです。日本にはアルミの原料はありませんが、優れた精錬のできる工場があって、色の映える美しいアルミが手に入りますし、日本の軟水は染色に適しているので、環境としてはとても良いのです。
――― 水が関係あるのですか。
金山主任;不純物の少ない軟水だと、発色は特に良いです。海外工場のあるところは硬水地域が多いし、不純物も日本に比べれば多いので、きれいな軟水が豊富な日本は、水質管理という点では非常に有利です。
――― それは知りませんでした。これからも「モノづくり」について心がけていきたいのは、どんなことですか?
金山主任;まずは、「良いものを作る」という気持ちをいつも持つこと。最後は人の目で仕上げますので、漫然とやっていてはできません。それから、挑戦することです。クライアントのどんな要望も、「無理」と投げ出す前に、トライします。土井鍍金工業の実績は数え切れないほどの失敗から学んだノウハウの上に立っていますし、誰でもできることをしていたのでは生き残れません。「土井鍍金工業にしかできない」という自負を持って取り組むためにも、これからも色々なことに挑戦していきたいと思っています。これまでの歴史とノウハウを継承しながら、さらに発展させていくのも、自分の仕事のひとつだと考えています。
――― 最後に、座右の銘を教えてください。
金山主任;特に「座右の銘」と考えたことはありませんが、いつも現場で言っているのは「品質は最後にモノが証明してくれる」です。工程一つひとつを大切にし、確実な仕事をすれば、きちんとしたものができます。どこかで手を抜いたら、あとになって必ずほころびが出てくるものなのです。
――― とてもよく分かりました。ロジテックとしても土井鍍金工業の皆さんの心意気と技術を最大限に活用できるような、確かな「モノ」を作り出して生きたいと思います。今日はありがとうございました。
■取材を終えて■
金山さんには、アルミへの愛着とともに、日本の技術に対する愛情も教えられました。海外工場との価格競争の中で、減少していく日本の工場と一緒に、優れた技術まで失われてしまうのではないかという危機感は、国内に工場を維持するロジテックとしても共感するところです。こういう「日本」でなければ作れない技術を使ったモノとして生まれた「凛」シリーズにはぴったりの「匠」でした。